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【呪術廻戦】無下限恋愛

第35章 幼魚と逆罰


※皆実視点


「……綾瀬さん」


 ボヤけた視界の先、七海さんが私のことを心配そうに見つめてる。

 独特な濁った匂いがしないから、もうここは地下水路じゃない。

 視線を上げれば、お手洗いの男女の標識がそれぞれ見える。

 七海さんが私を連れて、安全なところへ逃げ出してくれたんだ。


(……最後の最後で…足、引っ張っちゃった)


 七海さんの顔には冷や汗が滲んでる。

 視線を下げれば、七海さんが右腹を、赤く染まるティッシュで押さえているのが分かった。


「大丈夫ですか? あともう少しで伊地知君が迎えに来ます」


 自分のことよりも、私のことを心配してくれる。

 七海さんの優しさすら、今はどうしようもなく痛くて。

 重傷の七海さんに、私を運ばせてしまったことが申し訳ないのに。

 私にはその恩を返す術がなくて。


「……七海、さん」


 もしも、私が……七海さんの傷を治してあげられたなら。




『ひゅーっとやってひょいって感じなんだけど、コレを昔、五条に説明したときも分かんないって言われた』




 少年院の事件の後、家入さんに診察してもらった時。

 反転術式について尋ねたら、そんな返事をもらった。

 あのときは、まったく分からなかったけど。

 でも診察された時に触れた家入さんの呪力が、私の中に吸収されて留まっているから。


(……イメージすれば……もしかしたら)


 体内に残る、その呪力を探して、家入さんの反転術式をイメージしてみる。

 家入さんの口にした『ひゅー……ひょいっ』という、そのイメージを。


「綾瀬さん……何を……」


 七海さんの血濡れた右腹に触れて。

 そして、家入さんの呪力を掴んで、そのイメージを描く。

 そうすれば、私の手に、ぽうっと温かな光が灯った。


「……まさか……反転術式を……っ」


 体内を流れる家入さんの微量な呪力を、追い求めて掴む。

 だけど、それを遮るように、ツギハギの呪力がうるさい呪いの声となって、私の体をズクズクと突き刺していく。


「……なな、み…さん」


 家入さんの呪力が私の身体の中、遠く彼方に流れてく。

 傷を完全に治すことのできないまま。

 その血を止めることしかできずに。

 私は力尽きて、七海さんの胸に再び倒れ込んだ。
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