第35章 幼魚と逆罰
私の身体を貫く呪いを、掴み取って操作する。
いつもなら、気を抜いてしまえばすぐにでも掴み損なってしまう呪いの声も。
今回は見逃すことなどできないように、許容以上の呪いを吸収したから。
何があってもこの呪力を手放すことはない。
私の意識も理性も全部焼き切ってしまいそうな、この痛みを堪えて。
「避けた方がいいかな」
落ちてくる瓦礫を避けようとして、そこでツギハギは気づく。
自分の身体を、一切動かすことができないことに。
「な……っ、まさか! これも……『綾瀬皆実』の……術式か!」
先ほどの、単純な呪力の吸収と無効化とはワケが違う。
この『酩酊』は、呪力だけじゃない――その呪力を媒介する肉体ごとすべて、その制御を私の手の内にする。
だからツギハギは、この場から逃げるどころか、その指一本すら、動かすことはできない。
「七海さん!」
「上出来です」
七海さんがツギハギの逃げ足を絶つように、その脚を線分して攻撃をぶつける。
確実にヒットを与えて、ツギハギの逃げ道を絶った。
「一旦退きます。足、早く治したほうがいいですよ」
七海さんがツギハギの呪霊を見下ろして、言葉を吐く。
「お互い生きていたらまた会いましょう」
これで……私たちの逃げ道は、できた。
(……役に、立て…た)
ズクンズクンと、身体中の痛みが容赦なく駆け巡る。
四肢の感覚がどんどん消えて、立っていることすらできなくて。
霞む意識の中。
倒れ掛けた私を抱きかかえて、傷を負った七海さんがこの場を脱出した。