第35章 幼魚と逆罰
「急にスピードが上がって吃驚した? 自分の魂の形だって変えられるんだよ」
自分の脚を見せて、ツギハギは楽しげに解説する。
一貫して、ツギハギはこの戦いを楽しんでいた。
「呪術師は呪力で体を守ることはできても、魂を守ることはしてきてない。第一に『己の魂を知覚する』…これができなきゃそれは叶わない。でも多少は無意識に魂を呪力で覆っているようだね。そうでなきゃアンタは今頃俺の手駒さ」
ツギハギの攻撃を避けることができたのは、あくまで運が良かっただけなのだと、七海さんのことを侮辱して。
「まぁあと2・3回触れて……人間やめさせてあげる」
ツギハギは七海さんに攻撃を畳みかけた。
「七海さん、逃げて!」
「……っ、綾瀬さん!」
小刀を手にして、私はツギハギに飛びかかる。
小刀に最適な呪力をこめて、振りかざす。
「ダメだよ。君は傷一つつけずに持って帰るんだから」
にこりと笑って、ツギハギがその手から異形を放つ。
私は振りかざした刀の矛先を、ツギハギから異形へと変えた。
七海さんの線分のイメージで切断されていく手足、同時に木霊する『元人間』の悲痛の声。
何の感情も抱けないとしても、見たくも聞きたくもない惨状を、私の手が作り出していく。
「おお、いいね。漏瑚からは戦えないって聞いてたけど、結構いい動きする、じゃん! アハハッ、危ないなぁ!」
「……チッ」
ツギハギが私に意識を向けているあいだに、七海さんがツギハギに向かってナマクラを振り下ろす。
けれど怪我のせいか、七海さんの動きはわずかに鈍っていて。
その攻撃を簡単に避けられてしまった。
そうして、攻守交代。
今度は七海さんがツギハギからの攻撃をひたすら受けるターンとなった。
このままじゃ、七海さんが危ない。
七海さんが怪我をしている以上、これ以上の戦闘は得策じゃない。
けれどこのツギハギから逃げることすら、簡単な話じゃなくて。
(……一か八か)
ツギハギが七海さんに攻撃している、その瞬間を狙って。
私はその背中に手を伸ばした。