第35章 幼魚と逆罰
「七海さんっ!」
「大丈夫です」
七海さんはツギハギの攻撃をナマクラで受け、その腹に蹴りをいれる。
そしてそのまま間髪いれず、ナマクラを振り回してその遠心力を使ってツギハギの腕に呪力の攻撃をぶつけた。
「!」
七海さんのナマクラが7:3でツギハギの右腕に当たり、その右手がぷらぷらとぶら下がった。
けれど片腕を機能不能にされたというのに、ツギハギは動揺するわけでもなく、好奇心に目を輝かせた。
「俺ちゃんと受けたよね? 呪力で。そういう術式?」
「『そういう』とは? 他人任せな抽象的な質問は嫌いです」
「良かった、お喋りが嫌いなわけじゃないんだ」
「相手によります」
七海さんは静かに言葉を返す。
恐らくその返事の内側で、この呪霊について思考を巡らせているはず。
「ねぇアンタはさ、魂と肉体……どっちが先だと思う?」
「?」
「ほらあるでしょ。卵が先か、鶏が先かみたいな話」
本当に、普通の人間のようにツギハギは言葉を紡ぐ。
不気味な様に、悪寒が走った。
「肉体に魂が宿るのかな? それとも魂に体が肉付けされているのかな?」
答える必要はない。
けれども答えなければ、きっとこの問答は終わらない。
その空気を察して、七海さんは静かに、ツギハギの質問に答えた。
「前者」
私の答えも同じだった。
実際、私の存在はその答えの証明となりえる。私は少年院の事件の時、たしかに魂と肉体を切り離して、死んだから。
魂と肉体は別物。元々ある肉体に魂が宿っているだけだ。
私も七海さんに賛同するように頷くと、ツギハギは薄く笑った。
「不正解。答えは後者。いつだって魂は肉体の先にある」
ぶらんぶらんと揺れたその腕がボコボコと膨らんでいく。
「肉体の形は魂の形に引っ張られる」
まるで、虎杖くんの腕を宿儺が治してみせたときと同じように。
瞬間的に、ツギハギの腕が元通りに治った。
「治癒じゃない。己の魂の形を強く保っているんだ。もう分かったでしょ。俺の術式は魂に触れ、その形を変える」
そう告げる、ツギハギの手には小さな木彫りのような、石ころのような、なんとも言い示し難いモノが握られていて。
「『無為転変』」