第35章 幼魚と逆罰
早速任務に向かう虎杖くんと伊地知さんの背中を、私は静かに見送る。
そんな私の隣に立って、七海さんが壁に背中を預けた。
「2人が任務に向かったら、綾瀬さんは私と一緒に。犯人のもとへ」
腕を組んで、七海さんは私に静かに指示を出す。
私が頷くのと同時、部屋を出て行こうとしていた伊地知さんがその場で立ち止まった。
「ある程度ではなく、もう分かっているんですよね? 犯人の居場所」
伊地知さんの問いかけに、七海さんは腕を組んだまま返事する。
「勿論。犯人はその気になれば残穢なんて残さずに現場を立ち去れるハズです。私達はまた誘い込まれています」
それが分かっていながら、七海さんはあえてその誘いに乗ろうとしている。
そんな七海さんに、伊地知さんは質問を重ねた。
「虎杖くんではなく、綾瀬さんを連れて行く意図は……?」
「そういう約束だからですよ。もし彼と2人きりにして何かあったら、私ごとこの地域一帯がふっ飛ぶでしょうからね」
その言葉で、私にも伊地知さんにも、その約束が誰と結んだものかは聞かなくても分かった。
「それに綾瀬さんは人並み以上に残穢を読み解けます。加えて呪霊の攻撃は効きませんし、呪力の制御も大方できている。呪霊と戦うことが前提であれば綾瀬さんの存在自体はほぼ意味がありません。単身と捉えて問題ないと私は判断しています」
私を連れていくための理由を並べて、七海さんは小さく息を吐いた。
「その上で、単身乗り込むリスクと、そこにプラスして虎杖君を連れていくリスク……前者を選んだまでです」
迷いなくそう告げて、七海さんが横目に私を見る。
けれどもその視線は、少しの憂いを含んでいた。