第35章 幼魚と逆罰
情報収集を終えた伊地知さんが戻ってきて、私たちは作戦会議を始める。
「ここ最近の失踪者、変死者。あとは綾瀬さんの意見を参考に、亡くなった方に漂っていた残穢と、それに一致した『窓』による残穢の報告をまとめました」
伊地知さんがホワイトボードに地図を貼り、要点を綺麗にまとめた資料を渡してくれる。
正確かつ詳細な情報を得て、七海さんは小さく頷いた。
「これで、ある程度犯人のアジトは絞られます」
「近辺まで行けば、私も気配でアジトを絞れると思います」
「おっし!! 乗り込むか!!」
虎杖くんが意気込んで立ち上がろうとするけれど、七海さんが首を横に振った。
「いえ、まだまだ『ある程度』です。私は綾瀬さんと調査を続けますので、虎杖君には別の仕事を」
戦闘モードに入っていた虎杖くんは、またしても力が抜けたようにカクンッと身体のバランスを崩した。
「映画館にいた少年、吉野順平。彼は被害者と同じ高校の同級生だそうです」
監視カメラに映っていた映画館の事件の生き残り。
監視カメラから与えられた情報だけでは呪力を感知することはできないけれど、彼がこの凄惨な事件の犯人とは考えにくかった。
だからといって、彼だけが生き残った理由も謎……。
あの状況なら、全員皆殺しにあうのが普通だ。
「映画館の監視カメラはスクリーンに続く通路のみでしたが、佇まいからして彼が呪詛師である可能性は低いと考えていました。ただ被害者と関係があるとなれば話は別です」
七海さんも私と同意見だったみたいで、私は自分の予測が的外れではないことに安心する。
その一方で、虎杖くんは別の疑問を口にした。
「ジュソシ?」
「悪質な呪術師のことです」
七海さんは端的に答えて、虎杖くんに指示を出す。
「手順は伊地知君に任せてあるので、2人で吉野順平の調査をお願いします」
虎杖くんはその指示に歯向かうことなく、自らに与えられた任務に対して素直に「オス!」と敬礼で返した。