第35章 幼魚と逆罰
『人間だよ』
家入さんの声が、七海さんのスマホから響いた。
七海さんと虎杖くん、そして私は一度状況を整理するために、伊地知さんが用意してくれた拠点に場所を移していた。
『いや、元人間と言ったほうがいいかな。映画館の3人と同じだな。呪術で体の形を無理矢理変えられてる』
私たちが応戦した異形は、ほぼ瀕死・気絶した状態で家入さんのところに送ったけれど、結局異形を治療する術はなかったみたいで。
亡くなった異形を解剖した結果を、家入さんが教えてくれた。
けれど家入さんの報告は新たな疑念を私たちに残す。
「それだけなら初めに気づけますよ。私達が戦った3人には呪霊の様に呪力が漂っていた」
ただの人間として処理するには難しい程に、彼らからは呪力の気配がしていた。
このあたりで呪術師が失踪した話などあがっていないから、彼らが人間だとするなら、非呪術師であることは間違いない。
(でも、3人とも……同じ呪力の気配だったんだよね)
呪力には多少なりとも個性が加わるはず。
けれどあの3体とも、同じ呪力に包まれているような……そんな感じがした。
『そればっかりは犯人に術式のことを聞くしかないな。ただ、脳幹の辺りにイジられた形跡がある。恐らく意識障害……錯乱状態を作り出すためだろう。脳までイジれるなら呪力を使える様に人間を改造することも可能かもしれん。脳と呪力の関係はまだまだブラックボックスだからな』
もしそうなのだとしたら、犯人が自らの呪力を注入して体を改造、そして『元人間』たちがその呪力を使えるようにしていたと考えれば話の辻褄は合う。
映画館に残された残穢とは別の、『元人間』たちに仕込まれた呪力。
その痕跡を辿れば、犯人に辿り着けるはず。
私が気づくってことは……恐らく、七海さんもそれに気づいてる。
『そうだ、虎杖と綾瀬は聞いてるか?』