第35章 幼魚と逆罰
「余所見は感心しませんね」
「話しかけたのだぁれ!! 皆実、大丈夫か!?」
「大丈夫!」
虎杖くんの心配に、私はまっすぐ異形を見つめながら答える。
ドア型の肢体は重そうなのに、跳躍力があるのか、軽々と飛んでくる。けど着地した音から重量は相当。
(でも……っ)
小刀を手にして、私はその場を跳ぶ。
ドア型の異形の真上に着地して、その異形の身体に触れる。
(少しだけ呪力を吸収して……)
流呪操術で異形の動きを完全に止める。少しの間の停止であれば、吸収する呪力はほんの少しでいい。以前のようにバカみたいに吸収したら自分が参るだけ。
必要な量だけ吸収して、それを消費する。
身体の中を流れる呪いの声をかき分けて、ドア型の呪いの微小な声を掴んで。
(『酩酊』!)
動きが止まるのと同時に、そのまま踏み台にしているドア型の異形に小刀を当てる。
「逕庭拳」
真横で虎杖くんが呪力の衝撃を異形に食らわせている。
私のことを気にせずに虎杖くんも異形に集中できていた。
(足引っ張らずに……私も、戦えてる!)
異形に当てた峰先に、私の中を流れる呪力を流しこむ。
小刀が壊れないように、量を考えて。
(七海さんのように……パーツを等分するイメージで……)
しっかりと、正確に、七海さんの術式をイメージする。
そうしたら、峰先があたかも鋭利な刃に変わったかのように、異形の肢体に食い込んで――。
「虎杖君、綾瀬さん!!」
けれど、その声で、私の動きが止まった。