第35章 幼魚と逆罰
「二人に呪力の残穢が見えていない……それは見ようとしないからです。私達は普段当たり前の様に呪いを視認しています。術式を行使すれば痕跡が残る。それが残穢。だが残穢は呪霊などに比べ薄い。目を凝らしてよく見てください」
言われて、私と虎杖くんは同時に目を細める。
互いにものすごい人相で周囲に目をこらしたら、足跡のような呪いの跡がボヤっと浮かび上がってきた。
「えー……っと、……あ、なんか見えます」
「ん゛ーーー? おぉっ! 見える見える」
「当然です。見る前に気配で悟って一人前ですから」
私と虎杖くんの感動を、七海さんは一刀両断する。
「もっとこう褒めて伸ばすとかさぁ……」
「褒めも貶しもしませんよ。事実に即し己を律する、それが私です」
七海さんは淡々と告げる。
でも七海さんは褒めるところはしっかり褒めてくれるイメージだ。
その証拠に、稽古を頑張った私にケーキを買ってくれた。
けど、今はそういう話をしている場合でもない。
「社会も同様であると勘違いしていた時期もありましたが、その話はいいでしょう。追いますよ」
七海さんの指示に従い、歩みを進める。
虎杖くんは相槌を打つようにパシッと手を合わせた。
「押忍! 気張ってこーぜ!」
「いえ、そこそこで済むならそこそこで」
七海さんのそっけない返事に、虎杖くんは「うーん」と困り顔をしていた。
七海さんとの距離感を考えているのだろう。
それでも虎杖くんは七海さんと会話することをやめない。
階段を上りながら、虎杖くんは七海さんに声をかけた。
「監視カメラには何も映ってなかったんだよね?」
「ええ、被害者以外は少年が一名のみです」
「じゃあ犯人は呪霊?」
「まぁ、そうですね」
そんな会話を繰り広げていたら、屋上にたどり着いた。
「あの少年がやった可能性もなくはないですが、そちらの身元特定は警察の――」
屋上で、私たちを待ち構えていたのは……。
《おべおべんとぅ〜》
四つん這いでギョロ目を剥いた、馬型の異形だった。