第35章 幼魚と逆罰
「凄惨な現場です。覚悟はいいですか? 虎杖君、綾瀬さん」
七海さんに連れられ、私と虎杖くんは事件現場であるキネマシネマにやってきた。
キネマシネマの中に入ると、刑事さんが私たちを出迎えてくれる。1人はスキンヘッドのベテラン感漂う男性で、もう1人は少し若めの男性だった。
「それでは、現場を少し見させてもらいます。私たちが出てくるまでくれぐれも近づかないようにお願いします」
七海さんとベテラン刑事が慣れたように段取りをとる。
その横で若い刑事さんが私たちのことを怪しむように見ていた。
「では、行きますよ」
七海さんの先導のもと、私と虎杖くんはその後をついていく。
私の隣を歩く虎杖くんが感心するように呟いた。
「やっぱり皆実って人目を引くよな。刑事さんたち、皆実のことめっちゃ見てた」
たしかにいつも通りの好奇の視線は感じた。けれど今回は、それとは別の感情のほうが強く向けられていた気がする。
「私っていうか……制服着た私と虎杖くんを怪しんでたんだと思うよ」
「あー…そういえばたしかに。ま、普通に考えて怪しいよなぁ」
「雑談はそこまでにしてくださいね」
七海さんが私達の会話を止めて、立ち止まる。
メガネのブリッジに中指を立てて、七海さんは静かに問いかけた。
「見えますか? これが呪力の残穢です」
「いや、全然見えない」
虎杖くんが「何の話?」とでも言いたげに、ぽかんとした顔で答えた。
「綾瀬さんは?」
「私も、見えはしないです。ただ、呪力は感じます」
「感じられるのなら見えるはずですよ」
七海さんは中指を離して、私と虎杖くんの指導を始めた。