第35章 幼魚と逆罰
「脱サラ……なんで初めから呪術師になんなかったんスか?」
「まずは挨拶でしょう。はじめまして、虎杖君」
「あ、ハイ。ハジメマシテ」
七海さんに挨拶を返して、虎杖くんがペコリと頭を下げる。
挨拶が済んで、七海さんは虎杖くんの質問に巻き戻った。
「私が高専で学び気づいたことは、呪術師はクソということです。そして一般企業で働き気づいたことは、労働はクソということです」
(クソしか言ってないよ、七海さん)
思わず苦笑してしまう。虎杖くんがぽかんとするのも仕方ない。
真面目そうな空気を漂わせて、七海さんの発言はその空気とは似合わないものだった。
「同じクソならより適性のある方を。出戻った理由なんてそんなもんです」
そんな七海さんの台詞を、頭上で「暗いねー」なんて言って、五条先生と虎杖くんが耳打ちし合っていた。
「虎杖君、私と五条さんが同じ考えとは思わないでください。私はこの人を信用しているし、信頼している」
珍しく七海さんが五条先生を褒めている、というか肯定している。
五条先生もそれが嬉しいのか、頭上でドヤ顔を決めていたんだけど。
「でも尊敬はしてません」
「あ゛あ゛ん?」
「く、くるしいっ!」
続いた発言で、五条先生が私を抱きしめる腕に力をかけた。
おかげで首が絞まって、咳き込んでしまう。
「あっ、皆実ごめんね。今のは七海が悪い」
「勝手に私のせいにしないでください。まあ何にせよ、上のやり口は嫌いですが、私はあくまで規定側です。話が長くなりましたね」
一呼吸置いて、七海さんが虎杖くんに告げる。
「要するに、私もアナタを呪術師として認めていない」
そしてその視線を私にも移した。
「その点でいえば、綾瀬さん……アナタのこともまだ『呪術師』としては認めていませんよ」