第35章 幼魚と逆罰
「七海さん、支度終わりました!」
急げば5分で支度できるんだなと感動しながら、キッチンでコーヒーを飲む七海さんのもとに駆け寄った。
そんな私を、やっぱり七海さんは困り顔で見下ろす。この困り顔も、もう見慣れたもの。
というか、恐らくこの表情が『困り顔』なのだと認識できるようになった、というのが正しいんだと思う。
「髪、はねてますよ。ここまで急がれるとは思っていなかったので『急げ』などと言いましたが、伊地知君が迎えに来るまであと10分くらいあります」
そう言って、七海さんがまだ少し散らかってる私の髪に手を伸ばした。
「今日はアナタが会いたい人にも少しだけ会えますよ」
「え?」
私が顔を上げると、七海さんは静かに頷いて。
「髪、そのままでいいんですか?」
「……い、急いで直すので伊地知さんの迎えが来たら教えてください!」
七海さんの気遣いをありがたく受け取って、私は少しだけ丁寧に自分の髪を結い上げた。