第34章 心の師
「お待たせしましたー。苺のショートケーキです」
綺麗に盛り付けられた三角形の苺ショートケーキが私の目の前に置かれた。
頼んだ覚えがなくて、七海さんの顔を見上げたら。
七海さんが他所を向いて、コーヒーをまた一口含んだ。
「頑張っていますからね。そのケーキ分、これからも精進してください」
淡々と告げる、七海さんの声音は変わらなくて。
本当にソレは他意のない、私への『ご褒美』で。
『遅くなったけど、入学おめでとう』
高専初日に五条先生が私にくれたショートケーキを思い出す。
「苺のショートケーキは嫌いですか?」
フォークを通さない私に、七海さんが問いかけてくれる。
嫌いなわけがなくて、私は大きく首を横に振った。
「……大好きです」
素直に出た言葉。
別に苺のショートケーキは元から嫌いじゃなかったけど、五条先生のおかげで大好きになったものだった。
五条先生がくれた、たくさんの『好き』の感情。
でも私はそのどれも、五条先生に口にできないまま。
フォークを片手に、私は呟くように七海さんに問いかけた。