第34章 心の師
「綾瀬さんは……アイスカフェオレでいいですか?」
稽古を終えて、七海さん行きつけのカフェに寄る。
それが私と七海さんの日課。『身体を動かした後の一服は至高ですよ』という七海さんの言葉が日を重ねるにつれてよく理解できるようになった。
「はい。いつもありがとうございます」
「どういたしまして。……すみません、アイスカフェオレのMサイズと、ホットコーヒーのMサイズを」
七海さんが注文してくれている間に、私は席を探す。
テーブル席は全部埋まっていて、カウンター席に向かおうとしたら、店員さんが目の前に現れた。
「席をお探しならコチラにどうぞ」
優しい顔つきの、いかにも『爽やか』な店員さんが横並びのカウンター席を2席確保して案内してくれる。
「お連れの方はお一人様だけ、ですよね?」
「え? あ、はい」
どうして分かったんだろう、と。
少し首を傾けると、爽やか男性店員さんが恥ずかしそうに頬をかいた。
「ココによく来てくださる男性のお客様と、最近よく来られてるから、覚えてしまいまして」
「あー……」
「お客様は高校生、ですよね? あのお客様の妹さん、とかですか? 仲良いんですね!」
「えーっと……?」
矢継ぎ早に告げられ、どこから答えていいのか分からない。
まずは高校生であることから答えればいいのか、と考えていたら。
「この子に、何か?」
アイスカフェオレとホットコーヒーをお盆に載せて現れた七海さんが、私たちの間に割り込んで尋ねた。
「あ……お二人ともよくいらっしゃるので、ご兄妹なのかと」
「ああ、そういうことですか」
七海さんはテーブルの上にお盆を置いて、自分の座る椅子と、私の座る椅子を引き出してくれた。
「妻ですよ。他に御用がありますか?」
「え……………え? あっ、えっと、……失礼しましたっ!」
七海さんが淡々と答えたセリフに、店員さん同様私も固まる。
けど動揺しきった店員さんは、それ以上質問を重ねないまま、逃げるように奥の方へと消えて行った。