第34章 心の師
「小刀!」
一度死ぬ前まで、私が身につけていた赤鞘の小刀。
七海さんからそれを受け取り、私はそれをしみじみと見つめた。
「五条さんから渡されたものです。恐らくソレで呪霊を祓えるようにしろということでしょう」
七海さんに促されて、私は鞘から刀を抜く。
しかし中から現れた刀は、以前私が手にしていたものとは少し造りが違っていた。
「これ、どっちが刃ですか?」
「正確にはどちらも峰です」
私が手にする刀に刃はついていない。
どちらの先に触れても、鈍い先端に触れるだけ。
指が切れることもない。
「これで呪霊祓えるんですか?」
「刀に呪力を乗せれば、祓えますよ。というか聞きましたよ、綾瀬さん……アナタ、少年院の事件の際にその刀で自死したそうじゃないですか」
もうずっと前のことのように思える。
1ヶ月ほど前の話。
私はこの刀で自分の胸を突き刺した。
「二度とそうならないよう、刃を落としたんでしょうね」
「……これ、すごく良い刀って前に言われたんですけど……そんな簡単に刃を落としてもいいんですか?」
「さあ。あの人にとって物の値はたいした問題じゃありませんからね」
七海さんは淡々と告げて、私の刀に触れる。
「まあ祓えるとは言っても簡単なことではありませんよ? 綾瀬さんの場合、呪力量を誤れば刀が先に壊れるので、刀に供給する呪力のコントロールが課題になります。……ある程度呪力操作が身に付いた今が稽古の頃合いでしょう」
そう言って、七海さんがこれまた布でぐるぐる巻きにされた鉈を取り出した。
「アナタが頑張った証拠です。予定より早いですが……私と、実践をイメージした稽古を始めましょうか」
七海さんは人のやる気を掘り起こすのが上手だと、心の底から思った。