第34章 心の師
※七海視点
(はあ……無駄に疲れた)
綾瀬さんとの寝床問題は、やけに自分の思考を疲労させた。
それにしてもずっと五条さんと同じベッドで寝ていたというのだろうか。
やはり通報案件だろう。
そんなことを思いつつ目を閉じる。するとタイミング悪く、私のスマホが着信を知らせた。
着信相手の名前を見て、即座に終了ボタンを押そうとしたが。
何度もかかってくることが容易く想像できてしまい、ベッドから降りて部屋を出た。
「はい」
『遅ぇよ、七海。さては皆実に何かしてただろ』
綾瀬さんの過保護な保護者が、連絡を一切寄越さない私に痺れを切らしたらしい。
「何もしてません。というか、今から寝るところです」
『当然、別々で寝るよな?』
「ええ。別々です」
嘘はついていない。
互いに別の寝具で眠るわけだから、五条さんの感覚でいえば『別々』だろう。
『皆実はもう寝た? つーか寝れてる?』
「ええ。アナタがご丁寧に厄介な結界を張っていったおかげで」
『あ、バレた?』
五条さんが私の部屋を後にしてすぐ、異変は感じた。
結界の中身がどういうものかは分からないが、ありふれている呪いの気配が一切なくなったことを考えると、綾瀬さんのための結界であることは容易に分かった。
『それより、皆実の写真は?』
「撮りませんよ。というか、撮ったら怒るでしょう? アナタ」
『オマエの端末から瞬間的に消してくれれば怒んないよ』
「いろいろ面倒なので遠慮します」
『うーわっ、皆実独り占めする気かよ』
「自ら預けておいて支離滅裂な発言はやめていただけますか?」
私がため息を吐いても、五条さんは愉快そうに笑うだけ。
なんとも腹立たしい。