第34章 心の師
否定したのに、なぜか嘘がバレてしまった。
そういえば五条先生の家にいた時は初めからベッドで寝ていて、雑魚寝しようという考えがなかった。
気絶してベッドで目覚めたのが始まりだからか、五条先生のベッドで寝ることに最初から抵抗がなかったというか……。
「どうせ五条さんに言いくるめられたんでしょう。……アナタが五条さんから誤った常識を教えられているということはよく分かりました」
七海さんはそう告げると、大きくため息を吐いた。
「仕方ありませんね。折衷案です」
七海さんはベッドの上の重たそうな分厚いマットレスを持ち上げると、ベッドから人1人分開けてドスンと床に落とす。
そして先程クローゼットから出した薄い布団をベッドの上に置いた。
「綾瀬さんの言う通りに、私がベッドで寝ますから、綾瀬さんはコチラで寝てください」
七海さんは文句は聞かないというように、そのままベッドの上に腰を下ろす。
「マットレスを移動するのは大変ですので、同じ部屋で寝ることになりますが……一緒のベッドに寝るよりはいいでしょう」
「全然よくないですよ。……それなら私がベッドに寝ます」
ベッドが心地いいのはこのふかふかのマットレスがあるからこそだ。
マットレスから薄い敷布団に変えたら、背中が硬いはず。
私が不服を告げたら、七海さんが大きなため息を吐いた。
「綾瀬さん」
「はい……わっあっ!」
七海さんがベッドから立ち上がって、私の手を引く。
マットレスに押し倒されて、私の身体が沈み込んだ。
「黙って、ココで寝なさい」
七海さんの髪から滴った雫が、私の頬に落ちて。
「……ハイ」
私はおとなしく、七海さんのマットレスを奪うことにした。