第34章 心の師
「綾瀬さん、食事ができましたよ」
稽古を終えて、私は七海さんと家に帰ってきた。
家に帰り着くなり、七海さんは自分の分と私の分の夕飯を作ってくれて、私はその間に各部屋の掃除をした。
もともと綺麗にしてあるから、掃除ってほどでもないんだけど。
夕飯の完成を知らされ、私は手を洗ってからリビングに戻る。
テーブルの上には、色彩豊かなサラダと香りのいいペペロンチーノ、そしてコンソメスープが用意されていた。
「……これ七海さんが作ったんですか?」
「ええ。そちらにかけてください。飲み物は水とお茶と……アップルジュースもありますが、どれがいいですか?」
「あ、自分で注ぎます」
私は冷蔵庫を開けて水の入ったボトルを取り出す。
けれど冷蔵庫の中、五条先生の家ではお目にかかることのなかったものを見て、思わず声が出た。
「七海さんはお酒飲まれるんですね?」
「ええ。……そんなに珍しいものではないでしょう」
「五条先生の家にはなかったので、つい」
五条先生がお酒を飲んでいるところは一度も見たことない。
このあいだの北海道旅行でも、旅館の夕食の時にお酒を勧められていたけど断っていた。
「ああ……あの人は飲めませんからね」
そう言って七海さんがグラスを2つ用意した。
なぜ2つ? と首を傾げたら七海さんも首を傾げた。