第34章 心の師
七海さんの自宅マンションから徒歩15分の場所にある公民館。
そこの奥にある貸切の道場で、激しい音が響き渡った。
「綾瀬さん、怪我は?」
道場の畳と一体化してる私のことを見下ろして、七海さんが私に声をかける。
スーツのジャケットを脱いで、ワイシャツを袖捲りした七海さんが手を差し伸べてくれた。
「……大丈夫、です」
早速私は、条件通りに七海さんから体術指導を受けている。
前に真希さんから稽古してもらっていた時同様……否、あの時みたいに空を飛ぶことはないけれど、もう何回も七海さんに投げられている。
一応私が怪我しないようにと関節の部分にはプロテクターをつけてくれた。
「すみません……何度も」
「わざと投げられているわけではないでしょう。今はどうしたら私に投げられないかを考えてください」
「は、はい」
おそらく五条先生だったら『皆実、マジで弱いよねぇ〜。弱すぎて笑っちゃうんだけど』などと煽るところ。
七海さんは真剣に考えて、顎に手を添えていた。
「綾瀬さんは体重が軽いですから特に投げられやすいですね。もう少し筋肉をつけましょうか。腹筋・背筋・腕立て……それぞれ何回程度できますか?」
「腹筋と背筋は…50回くらいなら……腕立ては20回くらいです」
「ではこれから毎日腹筋と背筋を75回と腕立てを30回行ってください」
私の可能回数より多めに設定して、七海さんが指示する。
「ですが、重心のかけ方は比較的上手ですね」