第32章 反魂人形③
「本当にちょっとだけ。……僕のことを考えずに過ごしてみてよ」
そんなの、無理に決まってるじゃん。
こんなにも、頭の中は五条先生でいっぱいなのに。
「今、無理とか思ったでしょ。それだよ。そういう思考になってるのがダメなの」
諭すように言って、五条先生が私の額を人差し指で突く。
「笑顔を消してでも僕のそばにいるんじゃなくて、笑顔を消さずに僕のそばにいてよ。僕は僕の隣で笑ってる皆実にそばにいてほしい」
それは拒絶なんかじゃなくて。
心の底からの願いだ、と。
そう告げるように五条先生の手が私の手を強く握った。
「嫌いだからとかじゃなくてさ、呪いも考えずに……皆実が純粋に僕のことを好きになれるように」
この笑顔が呪いの作ったものじゃないって。
呪いに怯えずに、呪いのせいだなんて思わずに。
五条先生に好きになってもらいたいって。
私もそう思うよ。
「少しだけ、僕のことを忘れられる場所で過ごしてみて」
五条先生のことを忘れられる場所なんて、きっとこの世のどこにもないのに。
それが五条先生の願いなら、断ることなんてできないじゃん。
「大丈夫。僕は絶対に迎えに来るよ。皆実に会えなくても、僕は皆実のことだけ考える。僕は皆実と違って、他の女を抱いたりしないし」
そんなこと、わざわざ言わなくていいのに。
でもその言葉がバカみたいに私を安心させてくれるの。
「僕はこれから先ずっと、皆実だけを想うよ」
五条先生は握ってる私の手を離す。
代わりに五条先生の腕が私の首に回って。
冷たい感触が私の首に落ちた。