第32章 反魂人形③
綺麗な景色を見下ろして、五条先生に告げる。
呟くような私の言葉に、五条先生は小さく笑った。
「そうだね。ま、都会はキラキラしたもので溢れてるからさ。ここまで綺麗なのはなかなかないけど。……でも、皆実は田舎育ちだから、星がこれくらい綺麗だったんじゃない?」
煌めく景色を見下ろしたまま、五条先生が問いかけてくる。
でも私の頭には、昔住んでいた場所の夜空が思い浮かばなかった。
「……意識して空を見上げたことなかったです」
思えばいつも俯いていた。
見上げるときにはいつも、傑さんがいて。
だからかつて私が見上げた空は、いつだって傑さんでいっぱいだったの。
「誰も来ない丘の上で……いつもこんなふうに、傑さんと景色を見ながらお話してました。……見えた景色は今と比べ物にならないくらい質素でしたけど」
明かりなんてほとんどない暗い街を見下ろして。
虫の鳴き声が響く、森の中で。
傑さんと見ていたあの景色が、私はとても好きだった。
「まーた、他の男のこと考えてるし。しかも傑ってさぁ……今一番思い出しちゃダメなヤツだよ」
五条先生がわざとらしく大きなため息を吐いた。
「でもまあ……皆実の『1番』はアイツに取られてるから仕方ないか」
薄く笑んだ五条先生に、言いたいことはたくさんあった。
でも喉のすぐそこまで出かけた言葉は全部、吐息になって消えていく。
私の『1番』の居場所が、もう傑さんじゃなくなってるって。
言いたいのに、今の私じゃそれを口にすることは許されない。
「……皆実」
泣きそうになった私の頰に触れる、五条先生の手は温かくて。
五条先生の瞳はサングラスに隠れて、私にはやっぱり見えないの。
「約束だろ。泣かないって」