第32章 反魂人形③
「綺麗な景色ですね」
「うん。この山頂の展望台から見下ろす夜景はとにかく絶景らしいから、早めに来てみた」
五条先生から渡された観光パンフレットにもそう書いていた。
日本有数の絶景の一つで、札幌観光では絶対に訪れるべきポイントだって。
カップル向けのスポットでもあるらしく、周囲を見渡せば男女のペアでロープウェイに乗っている人が多い。
「皆実、キョロキョロしちゃダメだよ」
ロープウェイの中を見渡していたら、五条先生に頭ごと引き寄せられて、五条先生の肩に頭が乗った。
「五条先生……」
「もちろんイチャつきたくてしてるけど。それだけじゃなくてさ、そことそこのカップル、男の方が皆実のことチラチラ見てるから、そろそろ女の子の機嫌が悪くなると思ってね」
言われて五条先生が告げたカップルに視線を向けたら、私と同い年くらいの高校生カップルと大学生くらいのカップルが目に映った。
たしかに、その2人の男の人たちとは何回か目が合ってたけど。
「はい、僕以外を目に映さなーい」
そのまま目まで塞がれて、何も見えなくなった。
せっかく景色を見に来たのに、これじゃあ何も見れない。
「ロープウェイから降りたら解放してあげる」
耳元で五条先生の声が降ってくる。
目を塞がれてるから、五条先生がどんなふうに私に囁いてるか分かんないけど。
ざわついてる空気と、五条先生の髪が掠める頬が、距離感を教えてくれてる。
「今は僕のことだけ考えてドキドキしてなさい」
言われなくてもドキドキしてるよ、先生のバカ。