第32章 反魂人形③
少年のお母さんがボートの上で五条先生に頭を下げる。
どうやら少年がオールを勢いよく水面にぶつけて、その水が全部五条先生にかかったみたいだ。
「だってコイツらのボートがオレたちの方に近寄ってきてたんじゃん! 危ない漕ぎ方して、ヘタクソ!」
「誰がヘタクソだって?」
小学生くらいの少年の言葉に、本気で五条先生が反応する。いや、28歳落ち着こうよ。
「コラ、失礼なこと言わないの! 謝りなさい!」
「イヤだね。絶対悪いのソッチだもん。オレがこうやって合図送らなかったらぶつかってたし」
少年はフン、とそっぽを向く。
でも少年の言う通りだ。危ない漕ぎ方をしていたのは私の方。
私はすぐに謝ろうとしたんだけど、私の声にかぶせて大人げない大人が大きな声を出した。
「ヘタクソなのは僕じゃなくて皆実でーす! そして皆実のクソみたいな漕ぎ方をバカにしていいのも僕だけだから文句言うなよ、ガキンチョ」
「はあ!? オマエこそ大人のくせに子どもみたいなこと言ってんじゃん!」
「僕は大人ですー!!!」
聴いてるこっちが恥ずかしくなるような問答をしている。
もはや少年のお母さんも半目だ。
「五条先生」
「皆実は黙ってて。僕の華麗な漕ぎ方見せてやる」
「見たくねぇよ! ヘタクソ!」
「マジクソガキなんだけど?」
「五条先生! お母さんの前でそんなこと言わないでください! すみません、本当に!」
「いえ……ウチの子もすみません」
私とお母さんが頭を下げ合う中、五条先生と少年は口論をやめない。
「カッコつけヘタクソ」
「カッコつけなくてもカッコいいんだよ」
子どもと本気で喧嘩してる。
一向に止む気配のない口論を聞いていたら、もう呆れを通り越してしまって。
思わず笑ってしまった私を、五条先生がすぐに見た。