• テキストサイズ

【呪術廻戦】無下限恋愛

第32章 反魂人形③


「ちょっと、五条先生! バランスが……」

「大丈夫。僕、バランス感覚も完璧だから」


 揺れたボートは転覆せずに、バランスを保っている。

 けれどおかげで五条先生がボートの上、目と鼻の先に顔を近づけてきた。


「……周りに人いますからっ」

「そうだね。だからそんなに顔真っ赤なの?」


 五条先生がクスクス笑う。その笑う吐息が顔にかかってくすぐったくなる。

 身じろぎした私を五条先生は「かわいい」なんて言ってまた笑った。


「皆実だけだよ。ずーっと見ていたいと思える顔してんのも、ずーっと話してても飽きないくらいバカなのも。景色なんて全然見ようって気にならないし」


 せっかく景色が綺麗に見える場所にボートを漕いでるのに、なんてことを言うんだろう。


「だからってこんなに間近で見なくても……」

「見たいんだから仕方ないじゃん。皆実が悪いよ」


 五条先生が手を離す。そうしたらまたボートがあらぬ方向に進んでいくの。


「先生……っ」


 五条先生の手が私の頰に触れる。

 人目が気になるはずなのに、私はその手からやっぱり逃れようとしなくて。


(……!?)


 キスされる、と思っていたのに。

 目の前を水飛沫に遮られる。


「え……」


 なぜか五条先生だけがびしょ濡れになっている。

 突然の出来事に思考が追いつかなくて。


「先生、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない、全然」


 サングラスをはずし、五条先生が髪をかきあげて横を向いた。


 五条先生の視線の先、私たちの真横にはボートに乗った少年とその母親らしき人がいる。


「ご、ごめんなさい! うちの子が……っ!」
/ 612ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp