第32章 反魂人形③
お腹をはち切れそうなくらいにパンパンにして。
私と五条先生が次にやってきたのは、札幌の人気スポットの一つとされる公園だ。
わりと都会の中心部って場所なのに、自然豊か。
緑いっぱいに囲まれて、大きな池の中、涼しげに水面が揺れている。
のどかな、穏やかな空気が漂う公園。
けれど、そんな静かな雰囲気に似つかわしくない声が目の前から飛んできた。
「ねえ、皆実。僕アッチに行きたいって言ったよね?」
私と五条先生は今、綺麗な池の上、2人でボートに乗っている。
手漕ぎボートで五条先生の指差す、景色の綺麗な方へ向かってるはずなのに、ボートは全然違う方へと進んでいっていた。
「アッチに行くように漕いでるつもりなんですけど行かないんですよ。五条先生が漕いでください」
なぜか、ボートに乗った瞬間、五条先生が私にオールをもたせた。
ただ漕ぐだけだろうと思ってたんだけど、漕いでみたらその考えが甘かったと思い知る。
全然思ってる方に進まなくて、驚愕した。
「毎回言ってるでしょ。できる僕がしても意味ないって」
絶対五条先生が漕いだら、ちゃんとした方に進むはずなのに。
五条先生はオールを持とうともしない。
下手くそな操縦をする私を笑うだけだ。
「そのままじゃ乗り上げるよ、皆実」
「笑ってないで助けてくださいってば!」
「めっちゃ必死じゃん」
笑い事じゃない。
本当に浅瀬に乗り上げそうなんだけど。
(ヤバイヤバイ、この場合、オールってどう動かせばいいの)
慌てすぎて冷や汗が滲む。
そんな私をあくまで笑いながら、五条先生は私の手に自分の手を添えた。