第32章 反魂人形③
「やっぱり、皆実は僕を嫉妬で殺したいの? それともお店破壊したいの?」
「どちらも考えてすらいないんですけど」
「イヤイヤイヤイヤ、他の男と間接キスした話されて僕が平気なわけないじゃん?? 考えれば分かるじゃん??」
「分かんないですよ。別に間接キスなんかしてませんし。普通に分け合っただけです」
「何を分け合ったんだよ、幸せか??」
「フレンチトーストです」
五条先生の暴走気味の尋問に淡々と答える。
そのやり取りも、以前の私と五条先生が何気なくしていたもので。
(……普通に、喋れてる)
五条先生と普段通りに喋れてる。
それも全部きっと、五条先生のおかげ。
五条先生が以前の私たちの間にあった空気を作ってくれてるから。
「デートしてる時くらい、僕のことだけ考えなよ。他の男のこと考えるとかマジ無理」
「……五条先生のことしか考えてないですよ」
「ほらまた恵の話……え?」
素直に答えたら、五条先生が固まった。
すべての動きを止めて、じっと私に視線を向けていたかと思えば。
盛大なため息を吐いて、大きな両手で自分の顔を覆った。
「五条先生?」
「悩殺で死ぬかと思ったわ。どうやっても僕を殺す気じゃん」
「そういうつもりではないんですけど」
「は? 無自覚に人を悩殺させてんの? 怖すぎだろ」
「先生の感覚が怖いです」
「イヤイヤ、普通のこと言ってんじゃん。嫉妬殺しはいらないけどデレ殺しはいくらでも欲しいんだって。逆になんで分かんないの? やっぱバカだろ。バカに拍車かかってんじゃん、バカ」
「キレ方が理不尽すぎません?」
そんなにバカを連呼する大人って五条先生以外にいるのかな? 子どもの駄々を聞いている気分なんだけど。
「ハイ、皆実は僕を怒らせたので僕から『あーん』で食べさせてもらう権利を失いましたー」
「普通に自分で食べるので大丈夫です」
「返事が不正解ー。正解は『やだ、五条先生。食べさせて♡』デーッス!」
「……公共の場で恥ずかしいこと言わないでもらえますか」
「2人きりだったら恥ずかしいこと言いまくるくせに」
「……叩きますよ」
私が上目に五条先生を睨むと、五条先生は楽しげに声を上げて笑った。