第32章 反魂人形③
「早くケーキ来ないかなー。皆実のせいで体内の糖分がゼロになったし、早く補給しないと」
「……てゆーか、ケーキ頼みすぎじゃないですか?」
「イヤイヤイヤイヤ、ここの定番メニューの季節のフルーツタルトと生クリームたっぷりパンケーキとチーズケーキとガトーショコラはマストで頼まなきゃでしょ」
「……そんな義務があるんですか」
「そんでもって、僕が個人的に気になってる苺ショートケーキとアップルパイは食べたいじゃん」
「…………そうですか」
「他人事みたいに返事してるけど、皆実も一口ずつ食べるんだからね」
分かっているから遠い目をしているのだ。
ただでさえ口の中が甘ったるくて仕方ないのに、また大量の甘味を食べることになるのかと思うと中和する辛いものが食べたくて仕方ない。お腹いっぱいだけど。
「皆実は本当に少食だよね。まだまだ歩き回るんだから定期的に栄養補給しないと」
五条先生がため息まじりにそう告げる。
でもその言葉は、少し前に大切な友人たちがくれた言葉と同じで。
『飲み物!? まだまだ動き回るんだからなんか食べないと死ぬわよ!』
『食べきれないときは俺が残り食べるからなんか頼めよ! これとかオススメらしいぜ?』
蘇った温かな記憶に、心が揺れた。
「なーに? 僕との間接チューを想像してドキッとしちゃった?」
「いえ……TDLの時のことを思い出して」
素直に答えると、五条先生が面白くなさそうな顔をした。
「皆実が恵とイチャついてたTDLね」
「誤解ですよ」
あくまで伏黒くんはずっと私のことを心配してくれてた。
実際ご飯を食べる時も、私のことを優先してくれて。
「今みたいに私がご飯あんまり食べれないから……伏黒くんがフレンチトースト半分ずつにしてくれたんです」
2人で分け合ったフレンチトーストはとってもおいしかった。
思い出すと、少しだけ頬が緩む。
「ねえ」
思い出に浸る私のことを、五条先生がニンマリ笑顔で見つめていた。