第32章 反魂人形③
五条先生が一線を引き終えると、店員さんは少しだけ残念そうに肩を落として奥に消えていく。
それと同時に、五条先生は満足げに背もたれに体重をかけた。
水を飲む五条先生をじっと見つめていたら、五条先生が首を傾げた。
「何? 僕に見惚れちゃって」
「いえ……やっぱり五条先生ってモテるんだなあと思って」
素直に思ってることを告げたら、五条先生が瞬きを繰り返した。
店員さんの一連のやり取りはもちろん。実際、さっきの店でも、ここでも……五条先生は店内の女性たちの視線を独り占めしてる。
「何を今さら。あ……もしかして皆実ちゃん嫉妬!? 嫉妬しちゃってるの!?」
「違います」
別にそういうつもりで言ったわけじゃない。
心の中で追加で否定するけど、目の前の五条先生は「嫉妬なんてかわいいねぇ」と言葉を止めない。
「まあ僕はモテるけどさ。でも皆実と比べれば全然でしょ」
「……五条先生も謙遜することがあるんですね」
「常にしてるだろ」
即答されて言葉に詰まる。
(謙遜してる人は自分のこと『イケメン』とも『最強』とも言わないような……)
「謙遜した上で僕はやっぱり『イケメン最強呪術師』ってだけの話だろ」
しっかり心を読まれて、言い返された。
「それに謙遜を抜きにしても、皆実は僕よりモテるよ。今日だってずーっと街中で『あの子かわいー』って噂されてたじゃん」
(……そうだっけ)
だいたいそういう視線があれば、同時に生まれてくる嫉妬や厭らしい感情が流れてきて、教えてくれる。
でも今日は、五条先生との特訓のおかげで呪力の吸収を制御できてるからか、あんまり負の感情が流れてこなくて分からなかった。
「僕が今日も今日とてバカみたいに皆実をかわいくしちゃったから、男どもはみーんな隣歩いてる僕が羨ましいって顔してたよ。……ったく、わざわざこんなこと言わせるとか僕を嫉妬で殺したいの?」
五条先生は「あー、糖分欲しい」って文句言いながら水を全部飲み干した。