第32章 反魂人形③
「じゃあ僕が頼んだのを一口ずつ食べるのは?」
「……五条先生がそれでよければ」
私がそう答えると「もちろん」と言って、五条先生が店員さんを呼んだ。
サングラス姿の五条先生は特にオシャレをしてるわけでもなく、鎖骨丸見えのTシャツとジーンズといったシンプルな格好。
でも溢れ出る風格というか……色気というか。
それを隠しきれていないから、呼び出された女性店員さんが頬を染めながら小走りでやってきた。
「ご注文お決まりですかー?」
私とは全然違うキラキラした目で、店員さんは五条先生を見つめる。
少し大人な空気漂う綺麗なお姉さん。たぶん歳は五条先生より少し年下くらいじゃないかな。
五条先生はその店員さんに微笑んで、メニューを掲げてみせた。
「えっとーコレとコレとコレとコレとー……あ、コレはホイップ増し増しで」
「はーい、増し増しですね! ちなみにこのティラミスも今月のオススメなんですけど、いかがですか?」
「え、マジ?」
「マジです♡」
店員さんの言葉尻にハートマークが飛んで見えた。
五条先生は大量の注文に付け加えて、そのティラミスもお願いする。注文の量がもはや怖いのだけど。
注文を受けるお姉さんは終始にこやかで、注文の確認をしながら五条先生に話しかける。
「お兄さん、ケーキお好きなんですか?」
「うん。ケーキっていうか、甘いもの全般大好き♡」
サングラスを少しずらして、五条先生がウインクする。
その行動に店員さんの元からキラキラしていた目がハート型に変わった。
(……わー)
店員さんの反応を楽しんで、五条先生はわざと相手の求める振る舞いをしてる。
なんというか、芸能人のファンサービスを見ているような気分だ。
「でーも、僕の皆実ちゃんはあんまり甘い物好きじゃないみたいだから……この子のためにとびきり美味しいの持ってきてね」
話を切り上げるように言って、五条先生が店員さんに笑いかける。
わざわざ私の存在をアピールしたのは、店員さんに一線を引くためだろう。
(……慣れてるなー)
目の前で繰り広げられたやり取りは五条先生の経験を彷彿とさせた。