第30章 反魂人形
「……今、起きました。……おかえりなさい」
起きぬけの声。その言葉が嘘じゃないと、すぐに分かった。
「ごめんね、遅くなった」
「いえ……私のほうこそ、眠っててごめんなさい」
「いいよ。疲れたでしょ?」
「……五条先生のほうが疲れてますよ」
まあ、単純な疲労計算をすればそうなんだろうけど。
疲労に対する耐性も加味すれば、皆実の身体のほうが参ってる。
「今日はもう寝ようか。明日も朝から観光する予定だし」
皆実のためを思って、そう言った。
皆実の身体を抱きかかえて、ベッドのほうへ向かおうとして僕の胸を皆実が引っ張った。
「ん? どうした?」
「……温泉」
小さな声で言って、皆実が僕を見上げる。
とろんとした、眠たそうな目が僕のことを見つめて。
「一緒に……温泉入るって、約束しました」
たしかに言った。
この部屋を出ていくときに、帰ってきたら一緒に部屋の露天に入ろうと。
でもこんなに眠たそうにしてる子を無理やり温泉に浸からせるほど、僕は鬼じゃない。
別に温泉くらい1人で入れるし、なんなら明日もある。
「いいよ。温泉で眠ったら危ないし」
できるだけ優しい声音で言った。
皆実が言葉の意味を勘違いしないように、『眠っていいんだよ』と。
でも、皆実は首を横に振って、僕の首に腕を回した。