第30章 反魂人形
バーを出て、七海と別れる。
僕が向かうのは、皆実が待つ旅館だ。
(想定より遅くなったな)
もうあと10分程度で日を跨ぐ時間。
僕が『待ってて』と言ったから、おそらく皆実は健気に僕の帰りを待っているだろう。
そんな想像をしながら部屋に向かって、案の定明かりのついている部屋に罪悪感を覚えた。
けれど、部屋に足を踏み入れれば、その罪悪感は愛しさに変わる。
(……さすがに、疲れたよな)
ソファーに座ってコクリコクリと舟を漕いでいる、皆実の姿を見て苦笑した。
連日の心労と夜明けまで僕に抱かれた疲労が募っていたのだろう。
こんな寝苦しい場所じゃなく、ベッドで眠ればいいのに。
ギリギリまで僕を待っていたのだろうと思うと、それだけで愛しさが増す。
(寝てるけど、白クマもちゃんと歌わせてるね)
皆実の胸では白クマが軽やかな音色を奏でていた。
無意識下で、呪力の制御ができるようになっている。それほどまでに、この旅館で1人頑張っていたということなのだろう。
おそらくそれも、この疲労の原因。
「おつかれさま……皆実」
こんな寝苦しい場所じゃなく、ちゃんとベッドに寝かせてあげたくて。
皆実の身体を抱えようとしたら、皆実の身体が僕に巻きついてきた。
抱き寄せたわけでもないのに、皆実の身体が僕を抱きしめた。
その理由は一つ。僕は皆実の身体を抱きしめ返しながら問いかける。
「また、寝たふり?」