第30章 反魂人形
「でもまあ、こんなの初めてだから僕も戸惑ってるんだよねぇ。毎日がドキドキのオンパレード」
「ノンアルで酔ってますか?」
「初恋って言っても過言じゃない」
「毎日違う女性を連れて『毎回同じ女抱くとか飽きるだろ』とおっしゃっていたアナタが懐かしいですね」
「それを皆実に言っても祓うからな」
僕の冗談まじりの惚気に、ことごとく突っ込んで、七海が僕を揶揄する。
七海の言葉はたしかに過去の僕が口にした実際の言葉ではあるけれど。
今の皆実がそれを聞けば、十中八九『私にも飽きますか?』とかなんとか言って、また泣くことは目に見えてる。
もう、皆実の泣き顔を見るのは……お腹いっぱいなんだよ。
「それほど、大事ですか?」
七海が静かに問いかけてくる。
大事、なんて言葉じゃ全然足りない。
「僕の命に変えても……守りたいんだ」
最後、僕は心からの頼みを口にする。
「……僕の代わりに、しばらくあの子を守ってて」
きっと……人の痛みが分かるオマエなら、僕が壊しちゃった皆実の心も治せるだろ。
すっごく癪だけど、それくらいの信頼がオマエにあるよ。
「……そんな甘ったるいことを言うために、わざわざ此処まで?」
「僕が甘党なの、知ってるだろ」
僕は七海にもう一つの『シンデレラ』のグラスを渡す。
大切なお姫様を渡すように、丁重に。
七海はその甘い蜜をじっと見つめ。
「私は苦手ですけどね」
あくまで肯定することなく、そのグラスを口にする。
共に飲み干した、それが契約の証。
「甘っ」
「旨いだろ」
静かなバーに、僕と七海の対照的な声が響く。
魅惑の甘味が、人知れず僕たちの心を支配した。