第30章 反魂人形
「よく意味がわかりませんが、それなら私がそばにいるのも危ないでしょう。女性に頼むべきかと」
「皆実の仲良いとこでいけば、野薔薇か真希だけど。生徒にはまだ皆実の生存は隠しておきたい。そうなると女で頼めるのは硝子か、歌姫。……でもあの二人じゃ、もしもの時に皆実を守れない。冥さんは金積めば守ってくれるだろうけど、逆も然り。金を積まれれば、上層部に皆実を引き渡すこともあり得る」
一級呪術師だろうと何だろうと、僕が皆実を頼めるのは七海しかいない。
「呪いにあてられずに、なおかつ皆実を守れるって……僕が信頼できる人間を消去法で選んだら、オマエしか残らなかったんだよ」
僕はグラスの中を揺れる『シンデレラ』を見つめる。
僕の腕に抱いた皆実は御伽噺の姫よりも、遥かに可憐で魅惑的だ。
だからこそ、『ただの男』には渡せない。
「オマエみたいに恋愛とは無縁そうな男のそばが、今の皆実にはちょうどいいよ」
「失礼なことを言わないでくれますか?」
「は? まさかオマエ、女子高生に手出す気?」
「その言葉そのまま返しますよ。私は犯罪者になる気はありません」
しぶとい七海に、僕は三度目の頼みを口にする。
「とにかくさ、オマエにしか頼めないんだよ。大事な子だから」
「そんな子を他の男に任せる意味が分かりませんけどね」
「嫌に決まってんだろ。皆実に手出したらマジで祓うからな、オマエ」
「私はいつ呪霊になったんでしょうか」
百回目。おそらくそれくらいに達するだろう、七海の僕に対するため息が溢れた。
「しかし、アナタが1人の女性にそこまで執着するなんて……青天の霹靂ですね」
「ソレ、褒めてんの貶してんの?」
「どちらもです」
七海はやれやれといった様子だ。
別に驚くようなことでもない。
たしかに特定の女性に執着したことがないのは確かだけど。
別にそういう信条で生きていたわけでもない。
本気で好きになったから、執着してるだけのこと。