第30章 反魂人形
まあ、そうなんだけど。
でも皆実を前にしたら、その概念はきっとオマエからも消えるよ。
「じゃあ七海も今から共犯だ」
「いいえ、お断りします」
「ノーは聞かない。これは決定事項だよ。オマエにしか頼めない。僕はしばらく海外出張に行く予定だし」
だから七海のもとに置いておきたい。
けれど七海も、簡単には首を縦に振らない。それも分かっていたことだ。
「一緒に連れて行けばいいでしょう。急いでパスポート申請をしてあげたらどうですか」
「海外へは『皆実と悠仁の件』も兼ねて行くんだよ。だから2人には内密にしたい。でも、だからといって皆実を一人にもしておけない」
「ならアナタの家に、虎杖君と2人で置いておけばいいでしょう」
「それが一番ダメなんだよ。極力、2人きりにしたくない」
僕の不在に、あの2人を一緒に置いていくなんて、宿儺を喜ばせるだけだ。それだけは、絶対にありえてはいけない。
「どちらも私に預けるのであれば、当然私が不在の時に2人になる瞬間もあるかと」
「悠仁をオマエに預けるのはあくまで実践訓練、それに付随した教育のためだ。悠仁の寝泊まりは伊地知に任せる」
僕の言葉の意図を察して、七海が固まった。
「待ってください。つまり?」
「オマエにはしばらく皆実と一緒に住んでもらいたい」
「重ねてお断りします。虎杖君を私が引き取るので綾瀬さんは伊地知君に委ねてください」
「却下。さっきから言ってんだろ。オマエにしか頼めないって」
二度目。僕は再度、七海にしか叶えられない頼みを口にする。
「強力な呪いに対する耐性のないヤツのそばに皆実を置きたくない」
「どうして」
「ソイツが皆実の呪いに当てられて、皆実を襲うから」
「綾瀬さんは痴女ですか」
「違ぇよ。まあでもこれは話すより見たほうが早い」
説明するのにも疲れて僕がため息を吐くと、僕のため息に被せるように、七海も大きなため息を吐いた。