第30章 反魂人形
この頼みが、本題だ。
僕が静かに告げると、七海はその眉間に深く皺を刻んだ。
「なんですか、その字面からすでにヤバそうな頼みは」
「まあ聞けよ。悠仁とあともう一人、オマエに預けたい子がいる」
「私は保育士ではありませんが」
僕の頼みを耳にして、七海が額を押さえる。
たしかに、これから頼むことは『保育士』……いや『ベビーシッター』へのお願いみたいなもの。
でも、僕にとっては……何より大切なことなんだ。
「綾瀬皆実」
大切な、その名を口にして苦笑する。
「コッチも名前は知ってるだろ?」
皆実のことは悠仁と同じくらい、この界隈では有名だ。
とある高校の全校生徒と職員全員を鏖殺した『呪いの器』。
呪いに身を売った『呪詛師』。
それらの蔑称とともに、執行猶予つきの秘匿死刑となった経緯から……先日の少年院の事件で死亡したという事項まで。
「……アナタ、死人を何人隠してるんですか」
七海は呆れたと言いたげにため息を吐く。
なぜ死人が生きているのか、ということは聞いてこない。この際、その理由はどうでもいいのだろう。
「皆実は……本当は誰にも預けずに、僕のそばにずーっと置いておきたかったんだけどさ。……今僕がそばにいると壊しちゃうんだよね。精神的にも、身体的にも」
僕の苦笑の意味を理解して、七海は僕に向ける『呆れ』の色を濃くした。
「……彼女、確かまだ15、6とかでしたよね」
「うん。4月生まれだから16だよ」
一回りも違う……んだな。
口にして、実感した。
(そんなに歳離れてるのか……僕たち)
女子高生ということは理解してたつもりだけど。
歳を口にしたら違和感が残る。
それくらい、皆実の姿は歳を感じさせない。
幼くもなく、老けてもいない。
完成された美が、完全に年齢という概念を消してしまってる。
「五条さん、はっきり言いますが、犯罪ですよ」