第27章 情③
後ろを振り向くことのできない私の代わりに、目の前の宿儺がその人をその目に映して、これ以上ないくらいに口角を上げた。
《成程。嫌がった理由はコレか》
私を抱こうとする手は一切止めずに、そう呟いて。
「……い…やっ!」
《見せてやればいいだろう? ……俺の快楽に溺れたオマエの顔を》
わざと見せつけるように、五条先生の目の前で、宿儺が私の唇を奪った。
「……っ」
誰が溢した声かも、分からない。
喉に詰まったような音。
そこから溢れた感情には、苦痛も憎悪も、負の感情すべてがこめられていた。
《……皆実》
呪いの言葉が、また私の中を廻る。
《これが……オマエの縛りだ》
最後にそれだけ言い残して、宿儺が消える。
証の刻印が消えて、眠りに落ちたままの虎杖くんが、倒れ込むようにして私の肩の上に顔を乗せた。
「……」
息をすることさえ、私にはできない。
息の仕方すら、分からない。
いつか、こうなることくらい、縛りを結んだあの日に分かってた。
分かってたけど、でも……。
「皆実」
言葉が、何一つ出てこない私の前に、五条先生が歩み寄る。
でも五条先生の顔を見ることなんて、できなくて。
「……ちょっと来い」
五条先生の手が、私の腕を掴む。
強く握られた手首には、五条先生の爪痕が刻まれた。