第25章 情
「なん、で……」
目の前にいるのは、間違いなく宿儺だ。
語る口調とその声、そして顔に浮かぶ刻印が、虎杖君との明確な違い。
(どうして……)
宿儺に触れられた場所から呪いが流れ込んでくる。
身体が激痛を感じ始めたから、私は宿儺との間に無限をイメージした。
呪力の吸収を制御して、宿儺の呪力の吸収を拒む。
《ほう、この短期間で呪力の扱いがほんの少し上手になったな》
宿儺に褒められたって嬉しくない。
それより……。
《どうして、と問いたげな顔だな》
私の顔色を読んで、宿儺が私を嘲笑う。
《言っただろう? 『すぐに分かる』、と》
宿儺の生得領域から消えていく最中、たしかに宿儺はそう告げた。
でも、今……このタイミングで宿儺が顕現した理由が、分からない。
《小僧が明確に意識を保っている時、俺は小僧の意識に負けてこの身体を乗っ取ることはできん。だが、小僧が眠りの底に堕ちている時であれば、この身体を乗っ取ることなど難しいことではない》
淡々と、宿儺が顕現の理由を教えてくる。
でもそんな説明じゃ、納得できない。
「それなら、もっと早く……顕現してるはず、ですよね」
虎杖くんが眠るのは、当然今日が初めてではない。
眠りが顕現要因なのであれば、この1ヶ月、宿儺が現れるタイミングは何回もあったはずだ。
《本来であれば、すぐにでもオマエの前に姿を顕すはずだった。が、少々想定外の事態があって、条件が揃うのに時間がかかった》
宿儺はそう呟いて、うんざりするようにため息を吐く。
「条件、って……」
私が疑問を口にすると、私の手を掴んだまま、宿儺が私の眼前にもう片方の指2本を掲げた。