第25章 情
その日は、五条先生が任務に呼ばれて不在だった。
すぐに戻ってくると言い残して、昼に出ていったきり。
もう夜になってる。
(五条先生にしては……手こずってるなぁ)
いつもなら、夜にならないうちに帰ってきて、ドヤ顔してるはずなのに。
大変な案件なんだろうと、容易に想像はつく。
それでも心配にならないのは、五条先生の強さを嫌になるくらい実感させられている最中だから。
「♬♩♪♬♪♫」
綺麗なクラシックを奏でる白クマを見つめて、ため息を吐く。
すると、背後でスーーーッと息を吸う音がした。
「……っ!?」
驚いて、意識が呪力から遠のいたけど。
幸い、白クマは歌を奏でたまま。
私の背後には、困り顔の虎杖くんがいた。
「ため息吐くと幸せ逃げていくって言うだろ?」
だから吸った、なんて。
虎杖くんらしいことを言って、笑ってる。
地下室に、虎杖くんと2人きり。
五条先生が任務に出てる時は常にそうだから、もう虎杖くんと過ごす2人の時間にも慣れてしまった。
「クマと見つめ合ってるだけじゃ暇だろ。皆実も映画、見ようぜ」
「私のBGMうるさいよ?」
「じゃあクマのBGMかき消すくらい、めちゃくちゃうるさい映画にするか! いいのあるよ?」
虎杖くんはそう言うと、私をソファーに座らせて、オススメの映画をセットした。
「なんかお家デートって感じしない?」
私の隣に座って、虎杖くんが冗談っぽく言ってくる。
「全然しないよ」
私が苦笑すると、虎杖くんは「ちぇー」なんてわざとらしくがっかりした声を出した。
2人して制服姿で、真っ暗な部屋で映画を見て。
お家デートって言われたら、きっと誰も疑わないとは思うけど。
虎杖くんとそういう空気になるのは、嫌だったから。
私はキッパリと、それを否定した。
「ま、いいや。それより、皆実もコーラ飲む?」
紙コップに缶ジュースを注いで、虎杖くんが私に渡してくれる。
「ありがと」
白クマを抱きかかえたまま、私は紙コップを受け取った。