第25章 情
「ここじゃ勝っても負けても貧乏クジだ。交流会でボコボコにすんぞ」
冷静に告げて、真希さんは歩き出す。
あんな侮辱の言葉を受けても、真希さんの態度は全く変わらない。
「……ねぇ、真希さん」
私が呼んだら、真希さんは立ち止まって私のことを振り返った。
「さっきの本当なの? 呪力がないって」
私が尋ねると、真希さんは顔色ひとつ変えずに、眼鏡を外した。
「本当だよ。だからこの眼鏡がねぇと呪いも見えねぇ」
淡々と、なんでもないことのように真希さんは告げる。
「私が扱うのは『呪具』。初めから呪いが篭もってるもんだ。オマエらみたいに自分の呪力を流してどうこうしてるわけじゃねぇよ」
虎杖がもらってたやつと同じか……。
でも、もともと素質がないなら呪術師になる必要なんてなかったわけで。
「じゃあなんで呪術師なんか……」
私の質問を、真希さんは楽しげに笑った。
「嫌がらせだよ。見下されてた私が大物術師になってみろ。家の連中、どんな面すっかな。楽しみだ」
そう告げる真希さんの目には、光があって。
呪術師になったことに、明確な理由と意志があって。
『アンタ、そんなに呪いに耐性なくてよく生きてこれたわね』
原宿を一緒に歩いて、流れてくる呪いに顔色を悪くしてた皆実に、私が無神経に言った言葉。
『あはは……この耐性つけるように、呪術学んでるんだけどね』
全然ダメなんだよねって、困り顔で笑う皆実に、私の方が困って。
『そんなんで、よく呪術師になったわね』
特に意味もなく吐き捨てた言葉だったのに。
皆実はその言葉を捨てずに、抱え込んで。
『笑うためだよ』
真っ直ぐな瞳を、今でもちゃんと覚えてる。
『大好きな人の前で、心の底から笑うためだよ』
今の真希さんは、あの時の皆実と同じ目をしてた。