第23章 雨後③
「悠仁!」
その声で、目が覚めた。
目の前は、真っ白。
冷たい空気と、鼻にこびりつくような薬品の匂い。
丸裸の身体に白い布が頭からすっぽり被せられていて。
自分の身体が、本当に朽ちていたことを思い知る。
異様な、光景。
不安を煽られるはずの異質な空間なのに。
「おかえり!」
その声が繰り返し響くから。
心の温度計が壊れたみたいにポカポカになって。
不安なんて、微塵も感じなかった。
「オッス、ただいま!」
虎杖くんの、元気な声もする。
ちゃんと戻ってこれたんだ。
虎杖くんも、私も。
パン、と……手と手が重なる音がして、私はゆっくりと身体を動かす。
刺すような痛みはなくて、呪力を限りなく捨て去った身体はバカみたいに軽い。
肉体を離れる前、私が小刀を突き立てた胸も傷一つ残っていない。
(……本当に、治ってる)
致命傷とも言えるほど深く刺したはずの傷が、跡形もなく消えている。
宿儺の言うとおり、魂の離れた肉体には『反転術式』が効いたみたいだ。
いつも以上に元気になった身体が不思議に思えたけれど。
でもそんな不思議もどうでもいいと思えるくらい。
今すぐにでも、目にしたい姿がそこにあるから。
身体を覆う白い布がはだけないように、しっかり握ってゆっくりと上体を起こした。
「……っ、綾瀬さんまで!?」
まず聞こえたのは伊地知さんの声。
失礼かもしれないけど、私が求めていたのはその声じゃなくて。
「よかった。皆実もちゃんと戻ってこれたんだな」
隣のベッドに座ってる虎杖くんの、嬉しそうな声。
ごめんね、この声も違うの。
欲しい声を探して、私は視線を彷徨わせる。
定まった視線の先……虎杖くんのそばに、求めた人がいる。
「ご、じょう、せん、せ」
まるで初めて声を出すみたいに。声が掠れてうまく出ない。
でも呼びたくて。
もう一度口を開いたら、大好きな香りが私の身体を絡めとって。
零れた声は、言葉にすらならかった。