第23章 雨後③
《本当にうるさいヤツだ。……口の中が切れたぞ》
宿儺は舌打ちをして、血を吐き出した。そして、血のついた唇を拭きながら、私のことを見つめる。
《これで、小僧の魂は一度死んだ》
条件にせずとも、最初から虎杖くんの魂は一度殺す手筈だった。全部、宿儺の口八丁でゴリ押された契り。でも……。
《これで、オマエの同化の式は解けるのだろう?》
もう、すでに解除が始まっている。だから、身体がどんどん消えかかっていた。
《安心しろ、小僧はすぐに元に戻す》
透けていく私の身体に、宿儺の手が触れた。
《次にオマエに逢える日が、もうすでに待ち遠しいとはな》
「……虎杖くんとの縛りがある以上、虎杖くんと入れ替わったところで私には手を出せないはずです」
私がそう答えると、宿儺は小さく笑った。
《『契闊』による入れ替わりの場合であれば、な。あれは来たる日のための縛り。それ以外の入れ替わりであれば、この縛りは適用されない》
それ以外の入れ替わり……?
宿儺は虎杖くんが抑え込んでいる。今回のことで虎杖くんは余計に警戒を強めたはずだ。
簡単に、宿儺に身体を明け渡すはずがない。
けれど宿儺の声音はやけに自信に溢れていた。
《まあ、すぐに分かる》
そう告げて、宿儺は私の頬に手を当てる。
もうその手の冷たさも、私は感じない。
《消えかかっていても尚、美しいな……オマエは》
私の透明な髪を、グシャリと鷲掴んで、顔ごと私を引き寄せる。
《だからこそ……俺で穢してしまいたいのだ》
もう感覚のない私の唇に、宿儺の唇が触れた。
透明な私の身体が呪力を介すことはなくて。
それは本当に、ただの口付け。
互いにとって、何の利益もないキス。
それがなぜか、無性に心地よくて。
「や……っ」
《そう嫌がるでない》
宿儺の唇が離れていく。
私と宿儺を繋ぐ透明の糸が光を帯びて煌めいている。
その光景を、宿儺は満足げに見つめて。
《オマエの淫らな姿……毎夜思い描いて、まぐわう夜を待っているぞ》
目を眇めて笑う、熱を帯びた宿儺の瞳が目に焼きついた。
《皆実》
消える意識の中、宿儺が私の身体に手を伸ばして。
《オマエは……俺のものだ》
私を呪う言葉を、呟いた。