第23章 雨後③
《ここはあの世ではない。俺の生得領域だ》
「? 伏黒が言ってたよーな……」
《〝心の中〟と言いかえてもいい。バカめ。つまり俺達はまだ死んでいない》
その事実を告げて、宿儺は言葉を続けた。
《オマエが条件を呑めば、オマエと皆実の心臓を治し生き返らせてやる》
「偉っそうに。散々イキっといて結局テメェも死にたくねぇんだろ」
《事情が変わったのだ。近い内、面白いモノが見れるぞ》
私の時と同じ。生き返らせる理由を、宿儺はやっぱり濁した。
そして、これも先ほどと同様、宿儺は2本の指を虎杖くんの目の前に突き立てる。
《条件は2つ。①俺が『契闊』と唱えたら1分間体を明け渡すこと。そして②この約束を忘れること》
当然だけれど、私とは異なる縛り。
けれどこの縛りは宿儺への利が大きすぎる。宿儺に1分間身体を明け渡すのはかなりのリスク。1分あれば宿儺は何千人もの命を落とすことができるから。
「駄目だ」
当然の返事。
怪しさしか感じない縛りを、虎杖くんは拒絶した。
「何が目的か知らねぇがキナ臭すぎる。今回のことでようやく理解した。オマエは邪悪だ。もう二度と身体は貸さん」
《ならばその1分間誰も殺さんし傷つけんと約束しよう》
「そうしたら今度は何度も入れ替わって皆実に手を出す気だろ? 絶対駄目だ」
虎杖くんが拒否を続けると、宿儺が大きなため息を吐いた。
《分かった。ではその1分間、皆実に手を出さぬことも約束に付け加える。これでいいだろう》
宿儺にとっての利を極限まで減らした縛り。
契る意味があるのかも分からないほど、宿儺の譲歩で生まれた縛り。
そんな縛りを結ぶことに、逆に不安と怪しさが募る。
それは虎杖くんも同じだったようで、再び声を荒げた。