第23章 雨後③
「い、虎杖くん!」
「皆実、避けろ!」
ザパーンと勢いよく水面に落ちて、私はその水飛沫を真正面から受けた。
でもずぶ濡れになったことなんてどうでもよくて、私は水面に落ちた虎杖くんに駆け寄った。
「ぷはっ……完璧入ったと思ったのに」
「虎杖くん……大丈夫?」
水面から顔を出した虎杖くんに近づいて、向き合うようにしゃがみ込む。すでに濡れてしまった後だから、これ以上濡れてしまうことに躊躇はなくて。
顔に滴る水を気にすることなく、虎杖くんのことを見つめたら、虎杖くんの顔がまた赤くなった。
咄嗟に自分の身体を見たけど、胸元はちゃんと隠せていて、特に変なところはない。
私が首を傾げると、虎杖くんは頬を染めたまま苦笑した。
「いや、その……皆実が濡れてんのは、かなりエ――」
告げかけた言葉は、宿儺に踏み潰されて水の中に消える。
「ゔぼっ!!(※クソ)」
《オマエ如きが、皆実の淫らな姿に興奮するなど許されると思うな》
訂正する箇所しかない文句を口にして、宿儺は虎杖くんの背中に腰掛ける。
そして目の前に座り込んでる私に、薄く笑みを向けた。
《とはいえ、たしかにその姿は……ずっと見ていても飽きぬだろうな》
「な……っ」
《だが》
私が文句を言おうとしたら、宿儺が声を重ねた。
《……そう悠長なことも言っておられん。……魂が肉体を離れられる時間はそう長くないからな》
宿儺は小さく息を吐く。
そして私の顎に指をかけた。
《ずっとこのまま……オマエと2人、この領域で過ごすというのも悪くはないのだが》
宿儺が儚げに、笑った。
《現実のオマエの身体は、今この瞬間治癒された》
私との契り……そのための条件の1つを終えたことを宿儺が知らせる。
つまりこの領域で過ごす時間はもうあと少し。
《いいか、小僧。よく聞け》
話を畳むように、宿儺は虎杖くんに事の説明を始めた。