第23章 雨後③
《皆実がいるのに物を投げつけるとは……オマエ、皆実を殺す気か?》
上を見上げてみるけれど、ここからは宿儺の姿が見えない。
けれど虎杖くんは声のする方に向かって、怒鳴った。
「テメェが大好きな皆実を庇うことくらい分かってんだよ!」
そう口にしてすぐに、虎杖くんは私の方に向き直る。怒った顔は一変、心配そうな顔を私にくれた。
「とは言っても……ごめん。痛かったよな?」
「ううん、平気。そんなに高い位置から落ちたわけじゃないし……」
私が答えると、虎杖くんは安心したように息を吐く。でも私の身体をマジマジと見つめて、すぐに泣きそうな顔をした。
「……血、出てる。ごめん……っ、やっぱ怪我させた、よな」
私の首と、左膝から流れる血を見て、虎杖くんが苦しげに呟いたから。
私は慌てて両手を振った。
「ち、がうよ。これは今のでケガしたわけじゃなくて……」
「……もしかして、アイツにやられた?」
虎杖くんの顔色が再び怒りの色へと変わる。
「アイツに、何されたの? 服も破かれてるし……まさかっ!」
「違う! 私は大丈夫だよ、本当に」
虎杖くんが私と宿儺のあいだに起きたことを察してしまうのが怖くて。
私は必死に、その事実を否定した。
「虎杖くんの心配するようなことは……何もないよ。全部、私がドジっただけだから」
私が否定したから、虎杖くんはそれ以上何も聞かない。でも私の言葉を信じているわけでもなくて。
「待ってろ、皆実。マジでアイツ泣かす」
虎杖くんは私のことをその場に下ろす。
私の頭をクシャッと撫でて、ものすごい跳躍力で一番近い肋骨の上に飛んだ。
そしてそのまま目にも留まらぬ速さで、宿儺のほうへと走っていく。
「歯ぁ食いしばれ」
《必要ない》
私のいる場所からは完全に死角になってて、2人の姿が見えない。
木霊する声だけが、2人の状況を私に伝えた。
「ひっかかってやんの……アレ?」
《オマエはつまらんな》
虎杖くんの頓狂な声の後、もう何度も聞いた宿儺の呆れ声が響いて。
「ぐぇ」
虎杖くんが、落ちてくる。