第23章 雨後③
《許可なく見上げるな。不愉快だ……小僧》
私の頭に右手を乗せて、そのままその手に顎を乗せる。完全に上から目線で物を言う宿儺に、虎杖くんが青筋を立てた。
「なら降りてこい。見下してやっからよ」
《皆実を抱えているから無理だ。見れば分かるだろう?》
「分かってるから言ってんだよ。皆実に触んな、さっさと離せ」
虎杖くんが低い声で告げる。
威圧感たっぷりの声なのに、宿儺はやれやれと息を吐くのみ。一向に私を離そうとしない。
《随分と殺気立っているな》
「当たり前だ。こちとらオマエに殺されてんだぞ」
《腕を治した恩を忘れるとはな》
「その後心臓取っちゃったでしょーが!」
虎杖くんの文句も、宿儺は呆れ顔で聞くだけ。
まったく興味ないと言わんばかりの盛大なため息が私の髪にかかった。
そのため息にも、虎杖くんの怒りを増幅させたみたいで。
「死んでまでテメェと一緒なのは納得いかねぇけど。丁度いいや」
虎杖くんが足元にあった屍を掴んで。
「泣かす」
そのまま、コチラめがけて投げた。
(当たる……っ!)
《馬鹿が》
一瞬の出来事。
虎杖くんの投げた屍がぶつかる直前、宿儺が私の身体を屍の山から転がして。
宿儺自身は上方にある巨大な肋骨へと飛んだ。
「う、……わっ!」
私が転がり落ちた先には虎杖くんがいる。
水面に落ちそうになった私を、虎杖くんが寸前で抱きかかえるようにキャッチした。
「セーフ……!」
虎杖くんが安堵の息を吐く。
その息が顔にかかって、くすぐったくて。
身体を捩った私を虎杖くんが見下ろした。
私は反射的に制服がはだけてないことを確認して、虎杖くんに笑いかける。
「虎杖、くん……ありがとう」
無茶振りでも攻撃をしてくれたおかげで、やっと宿儺から解放された。
しかもこうして受け止めてくれたから怪我もせずに済んで。
私が心からのお礼を告げると、不機嫌な声が上から飛んできた。