第21章 雨後
《もどかしそうな顔も良い。……そのいじらしい顔をもっと見せろ》
宿儺が私の顔を覗き込もうとするから。
私は無理矢理に顔を動かした。
反射的に宿儺の胸に顔を埋める形になって、顔中が宿儺の呪力に刺された。
《ツレないな、皆実。まあ良い。おかげで耳は尚も無防備だ》
顔を隠したから、耳は宿儺の眼前に丸見えのままになっている。
髪で隠そうとしても、それは間に合わない。
宿儺が再び私の耳に舌を這わせた。
《ビクビクと身体を震わせて……もどかしくて苦しいのだろう?》
そんなこと、ない。
宿儺から与えられるものに、何も感じてない。
「……っ」
言い聞かせる私の耳には、宿儺が私の耳を痛ぶる水音だけが木霊してる。
《強情だな。……ならば、このまま話の続きをするぞ?》
宿儺の舌が這う耳の粘膜が、裂かれるように痛い。
痛いのに、耳が熱くて……どうしようもないくらいくすぐったいの。
震えの止まらない私を嗤って、宿儺は本当に話の続きを口にする。
《……何にせよ、このまま何もしなければオマエも小僧も、俺も死ぬわけだが》
この状況で、話をされても。
うまく答えられるわけないのに。
《俺はまだ、オマエに死んでほしくはない》
きっとこれは、重要な話なんだって分かるのに。
私は話に集中することを許されない。
《オマエが条件を呑めば、オマエも、小僧も……生き返らせてやる》
私の膝裏を抱えていた宿儺の手が私の学ランに伸びて。
そのまま無理矢理に学ランを剥いだ。
「や……っ」
宿儺の胸に顔を埋めたまま、体を隠そうと身を捩るけど。
私の背中を支える宿儺の腕がそれを許さない。
《どうだ? 条件を呑むか?》
「……生き返らせる方法なんて、ないって……」
さっき宿儺が自分で言ったんだ。
私に反転術式は使えない。虎杖くんにもこの状況で反転術式は通用しないって。
《ああ。通常の反転術式であれば、とな》
宿儺はそう告げると、ボタンが弾け飛んだ学ランの中に手をかける。
学ランの中に着ていたワイシャツも、そのまま破るように剥いだ。
けれどその行動に動揺している暇すら、私には与えられない。