第21章 雨後
そんなことありえないって、思いたいのに。
もしそれが本当なら、男の人から向けられてきた下心に説明がつくの。
私が零したほんの少しの呪力に当てられて、そうなっちゃったんだって。
(でも、それを認めちゃったら……)
《あの男も、オマエの呪いに当てられて……オマエを腕に抱いただけのこと》
私の不安を宿儺がそのまま口にする。
五条先生が私にキスをしたのも、私のことを抱いたのも。
呪力を流すのは建前で、本当は私に呪われただけなんじゃないか、って。
(五条先生は……そんな人じゃない)
頭で否定しても、心が不安に囚われてしまう。
その不安が呪いとなって、また私の中の呪いを濃くする。
《哀れだな。哀れで、愚かな……その感情をもっと、寄越せ》
「ぁ、っ……あぁ、ん、んっ」
舐めとられる血液に私の呪いが溢れてく。
宿儺の唾液と私の血液が混ざり合って、呪力がどんどん流れていく。
ドクドクと脈打つように血が流れて。
その全部を吸い上げるみたいに、宿儺が私の首筋でジュルリと音を立てた。
「や、ぁ……っ、ぅ、ん」
抵抗したいのに、声がうまく出ない。
出ていくのは抑えきれずに溢れた、はしたない声だけ。
《まだまだ足りぬ》
宿儺が首から顔を離して、次は私の左膝に噛みつく。
新たに噛みちぎられた傷から血が滲んで、それがまた宿儺の唾液に絡めとられる。
「いや、ぁ、あぁっ」
《オマエの肢体全てに、俺の傷をつけてオマエの味を堪能する》
身体に直に与えられる痛みと、呪力を使って間接的に与えられる痛みが、身体の中で悲鳴を上げる。
その悲鳴が私の中を流れる宿儺の呪いと共鳴して、身体がズクンと疼いた。
私の身体が不自然に震えたのを見て、宿儺が私の膝から顔を離す。
満足げな顔が私を見下ろして、そのまま私の耳を舐めた。
《たったこれだけで、気持ちよくなってしまったか?》
耳の中に舌を這わせながら、揶揄する言葉を唾液に絡ませて。
鼓膜に直に響いてくる宿儺の声と水音が、私を容易に辱めた。