第21章 雨後
私の口の中を舐め回しながら、宿儺は悦に浸る。
「……っ、やはり……格別だな。オマエの、味は」
「……や、んっ、……っ、ぅ、んんっ」
また、この感覚。
気持ち悪いのに、強制的に快楽を押し付けられるような。
「ま、だ……話の途中、んっ、ぁ」
《ああ。……っ、ククッ、このまま……俺は会話を続けても、かまわんぞ?》
宿儺は私の口の中を舌で弄りながら言葉を紡ぐ。
言葉の形に舌が動いて、声に変わった吐息がそのまま喉奥まで流しこまれる。
むせるような感覚が、どうしようもなく苦しいのに。
(や、だ……なん、で)
異様なほどに、呪力が流れていく。
貧血に近い感覚が押し寄せて、頭は朦朧としていた。
流れる量と同じくらい、触れられた身体中から宿儺の呪力が流れ込んできて、壊れそうなくらいに痛みも廻ってる。
キスだけで、翻弄されてしまう私を、宿儺が笑った。
《皆実……『味わう』のは、これからだ》
宿儺の唇がそのまま私の首筋へと滑る。
(う、そ――っ)
「いっ、た……ぁっ!」
宿儺の舌が私の首筋を舐めて、そのまま薄い皮に歯を突き立てた。
呪力のこもらない、歯の力だけが加わって。
ブツッと宿儺の犬歯が私の首の皮を突き破り、私の呪いにまみれた紅い血が首筋を伝う。
「や……ぁ、だ、め……血が、呪いが、きちゃ……」
《ここに他の呪いは立ち入れぬ。……もし立ち入れたとしても、俺に祓われるだけだ》
伝う血を、宿儺の舌がレロッと舐めあげて。
その口端についてしまった私の血も、残さず全部舌で舐めあげた。
《これほどまでに極上な甘い蜜……誰にも渡さん》
舌舐めずりをして、宿儺がまだ血の止まらない私の首筋に再び舌を這わせる。
「こん、なの……おいしく、ない……ですから」
だからやめて、と告げようとした言葉は、宿儺の言葉に重なって消える。
《自分の……呪いの味も、知らぬのか?》
知るわけ、ないじゃん。
でもその声も出せなくて。
淫らな声を我慢することしかできなくて。
《皆実の呪力は……媚薬みたいなものだ。……それは人間に対しても同じ》