第21章 雨後
《それほどの未練を遺しておいて、それでも死を選んだ理由がさっぱり分からんぞ》
宿儺に理解してもらおうなんて、思ってない。
ただ、あのまま私が何もしなかったら、虎杖くんも伏黒くんも間違いなく死んでいた。
私がこうしたところで、虎杖くんの命は守れなかった。
それでも……。
「それが最善の策だと思ったからです」
後悔はしていない。
浅はかな考えで術式を使ったわけじゃない。
でもその考えを揺らがせるみたいな、宿儺の表情が私の心をぐちゃぐちゃにする。
《本当にそうか? オマエに呪力による攻撃が効かないのは事実。精神が壊れようとも、オマエだけは生き残れたはずだ》
「……それこそ、ありえないですよ」
《なぜ?》
ただの呪霊ならば、呪力と術式任せの攻撃に偏るけれど。
人間と同等か、それ以上の知能を持つ宿儺なら、呪力を使わずに私を殺すこともできたはず。
「あなたはみんなを殺した後、私を『喰う』って言ってました。だからみんなが死んじゃったら、きっと私もあなたに喰われて死んでます」
私がそう答えると、宿儺は瞬きを繰り返した。
そして次の瞬間にはケヒケヒと独特な笑い声を散らかす。
《やはりオマエは馬鹿だな》
「だから、バカって――」
《これは別に揶揄ではない》
私の言葉を遮って、宿儺が私の耳に唇を寄せる。
《俺がオマエに告げた『喰う』は『食す』という意味ではない。『味わう』という意味だ》
直に言葉が脳に響く感覚に、顔が歪むのを止められない。
「……何が違うんですか」
聞かなくても、よかったのに。
疑問を口にして、宿儺がニヤリと笑みを向ける。
その笑顔と同時、宿儺に触れられてる身体に熱が走る。
(これは……まずい)
頭で理解しても、身体はすでに宿儺の呪力にあてられて動かない。
でも逃げたくて、宿儺の腕の中でもがいてみるけれど。
そんな私を宿儺が嘲笑った。
《良い良い。……丁寧に教えてやる》
にこやかに、不気味なほどに優しく。
そう口にして、宿儺が私を抱き寄せる。
「やめ――」
抵抗は、何の役にも立たず。
私の拒否の言葉は音になる前に吸い込まれた。