第21章 雨後
話は振り出しに戻る。
最初から、そう分かっていた。
結論が変わらないのに、あえて回りくどく話を進める宿儺の意図が分からない。
しかし、宿儺はその真意を解説することなく、話を続ける。
《だから問いたいのだ》
宿儺はどこか遠くを見つめて、静かに呟く。
《小僧のことは反転術式で生き返ると予想していたのかもしれんが、オマエは自分に対してそれは予想していない。つまりどう足掻いてもその術式を使えば死ぬと、分かっていたはずだ》
宿儺の視線が私の瞳に刺さる。
《それなのにどうして、自らを生贄にする選択をした?》
問いかける宿儺の顔に、不自然な笑みは飾られていない。
おそらくこれは、宿儺の本気の疑問。
《死にたかったのか?》
畳みかけるように、宿儺が疑問を重ねる。
この疑問に律儀に答える必要はない。
でも、みんなと、五条先生と過ごす幸せな日々を、手放したかったみたいに思われるのはどうしても嫌で。
もっとその幸せに浸っていたかったことは否定したくなくて。
「死にたくは……なかったですよ」
素直に答えた私を、宿儺はまた鼻で笑った。
《ならばなぜ死を選んだ。オマエは馬鹿か?》
心の底から私を馬鹿にしてるような、そんな態度が癪だった。
「バカじゃないです」
《あの男には終始『馬鹿』と言われていただろう?》
宿儺の口にする〝あの男〟が誰なのかなんて聞かなくても分かる。
なんで今、五条先生の話をするのって。
宿儺に対して生まれる感情はやっぱり憎しみと怒りしかない。
「あれは……五条先生だけの特権です」
五条先生がくれる『バカ』はいつだって優しかった。
こんなふうに、私の感情を逆撫でしないの。
「だから、あなたが口にしないで」
上書きされるみたいで、嫌だった。
嫌悪を隠すことなく、顔に出した私を宿儺は満足げに見下ろす。
《しかしもう、あの男がオマエにそう告げることはできん。その特権も終わりを迎えているぞ?》
宿儺はわざとらしく、私が嫌がる言葉を紡いでくる。
こんなやつの前で泣くもんかって。
顔を歪めたら、宿儺が笑った。